大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)5325号 判決

原告

谷口治生

右代理人

池添勇

右復代理人

谷口武彦

被告

明治生命保険相互会社

右代表取締役

高木金次

被告

田村朋弥

右両名代理人

近藤英夫

木崎良平

被告

大洋金物株式会社

右代表取締役

石村豊明

被告

岡田憲明

右両名代理人

浅野承治

第一、主 文

一、被告らは原告に対し、それぞれ金三、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年一一月二九日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、この判決一項は仮に執行することができる。

四、ただし被告明治生命保険相互会社、被告田村についてはそれぞれ金一、〇〇〇、〇〇〇円あて、被告大洋金物株式会社、被告岡田についてはそれぞれ金五〇〇、〇〇〇円あての担保を供するときは、それぞれ右仮執行を免がれることができる。

第二、本訴申立

「主文一、二、三項同旨(自動車事故損害賠償の内金請求)」

第三、争いない事実

一、本件人傷自動車事故発生

発生時 昭和三九年二月一七日午後六時三〇分過ぎ頃

発生地 大阪市南区竹屋町一三番地先交差点

第一事故車 被告田村所有の軽四輪自動車、マツダキヤロル六四年式、八京は四二九号

右運転者 被告田村(当時被告明治生命難波月掛営業所長)

第二事故車 被告大洋金物所有、軽三輪自動車マツダ六三年式、三大え二五八六号

右運転者 被告岡田(被告大洋金物従業員)

負傷者 原告(軽二輪自動車ホンダドリーム大た七五一五号運転中)

態様 原告が南北路を南行し右交差点を横断しようとした際、東西路を東行してきた被告田村の第一事故車と接触、そのはずみで進行左前方方にとび出た時、東西路を西行してきた訴外岡田の第二事故車と接触、ために原告は受傷した。

二、損益相殺

原告は被害者請求により第一、第二、各事故車につき自動車強制保険金として各一〇万円あて、被告田村より見舞金五万円、被告大洋金物より見舞金二万円、合計金二七万円を受領している。

第四、争点

一、原告の主張

(一) 責任原因

(1) 被告田村の過失責任、運行者責任

本件交差点は交差路はいずれも幅員がせまくしかも見透しの悪いところで信号機、交通整理標識もないところであるのに左右の注意をおこたり先入した原告車を待避せず漫然時速三〇キロで進入したため、衝突したもので、被告田村は民法第七〇九条により運転上の過失責任を免がれないし、同時に事故車の所有者として運行者責任を免がれない。

(2) 被告明治生命の運行者乃至使用者責任

ところで被告田村は被告明治生命の営業所長として外交契約等の営業活動に便ならしめ、又・能率向上のため、通勤、渉外にわたつて第一事故車を運転使用していたのであるから、その限りにおいて被告明治生命は相対的に第一事故車の運行者というべく、かりに運行者に当らないとしても使用者として、たとい勤務時間外といえども、勤務に関連、附随する運転中の本件事故について賠償責任を免がれない。

(3) 被告岡田の過失責任

原告が被告田村の車にまず原告車の後部車輪に衝突されたため、左斜前方約六米につきとばされ、さらに被告岡田に第二の衝突をされたのであるが、被告岡田は(1)に主張したような本件交差点の状況であるのに右側方の注視、徐行義務をおこたり漫然時速三〇キロで走行したため、第一の接触の危険発見が遅れ、予防措置をとることが出来ず、車両前部で原告車に衝突したもので、被告岡田の運転上の過夫責任は免がれない、

(4) 被告大洋金物の運行者乃至使用者責任

ところで被告大洋金物は第二事故車を自己の商品運搬、渉外などのため運行の用に供していたものであり、従業員岡田が業務中に惹起した事故であるから運行者、かりにそうでないとしても使用者として本件事故についての賠償責任を免がれない。

(5) 被告田村と被告岡田の共同不法行為

本件事故に被告田村、被告岡田の過失が相まつて原告の負傷となつたものであるから共同不法行為というべく、従つて被告ら四名は不真正連帯債務の関係にある。

(二) 損害の発生

(1) 傷害の内容

左下腿骨々折の重傷を負い、受傷部分が化膿し、その結果生命の危険をさけるため左大腿部中央から切断するのやむなきにいたつた。

(2) 損害の数額

(イ)療養費

(A) 治療費 金一三四、八八〇円

原田外科入院(三九、二、一七〜三九、三、二九)

済生会病院入院(三九、三、三〇〜三九、五、四)

(B) 付添婦費 金 三三、一四〇円(三九、二、一七〜三九、三、三〇)

(ロ)逸失利益 金七、二〇〇、〇〇〇円

(ハ)慰藉料 金  五〇〇、〇〇〇円

(ニ)損害合計 金七、八六八、〇二〇円

(3) 右算定の事情

(イ)原告は大工職として事故当時最低一日二、〇〇〇円の賃金で毎月最低五万円の実収があつたところ、左脚切断のため労働能力を全く失い将来生計を立つべき職も見当らない。そして原告は二七歳であつたから平均余命の範囲内でなお今後三〇年間は大工として右額を下らない収入を得た筈であつたから、その間の得べかりし利益の総額、現価をホフマン式によつて算出すると、少くとも(2)の(ロ)の金額となる。

(ロ)原告の妻は事故当時臨月であつたが、現在原告は妻と三歳および事故後出産した子との家族をかかえ、事故により生計を失いその心身の苦痛、悲嘆の底におとし入れられた打撃は筆舌につくしがたいものがある。従つて(ハ)の慰藉料が相当である。

二、被告田村、被告明治生命の主張

(一) 被告らの無責

被告田村に過失はない。本件事故は全く原告の過失にのみ基因するものである。

被告田村は昭和三五年八月頃に軽免許を得て以来殆んど毎日乗車して運転者としての経験は豊富でスピード違反一回だけの外、全く無事故で当日精神状態も良好で、飲酒もしていなかつた。また事故車は昭和三八年一〇月頃購入したもので車体の整備も完全で、機能構造上の欠陥障害も全くなかつた。

被告田村の進行してきた周防町通りの幅員が一〇間以上あるのに原告の進行してきた竹屋町通りは幅員が約半分であるから、原告車は当然広路優先上、交差点で一旦停止なり徐行して広路進行の被告田村の車を避けて進行すべきなのに高速ギヤーはトツプのまま猛烈な速度で突つこんできたので、すでに左右の安全を確認して先行車と五〇メートルの車間距離をおいて交差点に進入した被告田村の車に衝突したものである。

しかも原告車は被告田村車と接触後も車乗のままやや左前方に進行を続けたが不幸西進してきた被告岡田車と衝突したため負傷の憂目をみたもので、原告の受傷について被告田村の運転行為は何らの因果関係を持たないものである。

被告明治生命は帰責原因に当る関係は全くない。本件第一事故車は被告田村の所有に属し、同人が業務一切を了え、帰宅のため運転中遭遇したもので、業務とは全く関係がないものである。

(二) 過失相殺

かりに被告らに何らかの損害があるとしても、原告の過失は前記のとおり重大であるから、大部分過失相殺されるべき事案である。なお傷害の程度は全治三週間の程度であつたもので原因外科の医師の治療行為の過失により損害が拡大したもので原告主張の損害の大部分は本件事故と相当因果関係がない。

三、被告岡田、被告大洋金物の主張被告らの無責

被告岡田は時速三〇キロで走行し、本件交差点手前ではさらに二〇キロに減速徐行し、左右の安全確認はつくしていたもので、本件は全く原告の過失により、急にとびだしたため、起つたもので、被告岡田としては本件突発事故の予見不可能な状況であつたし、最大限の危険予防措置をとりつつ運転していたので全く過失は存じない。

従つてまた被告大洋金物も責任を負うべくもないものである。

第五、証拠<省略>

第六、争点に対する判断

一、事故の具体的状況

(1) 現場の状況

原告の進行してきた南北道路は幅員六メートルで自動車の南行一方交通であり、東西周防町筋は車道幅員八・一メートル、両側歩道各二・三メートルでアスフアルト舗装であるが現場附近には各種店舗商社がたてこんで左右相互の見透しは悪く、また信号機の設置もなく、交通整理も行われていない。

(2) 被告田村の走行状況

被告田村は堺筋から右折して、先行車との間約一〇メートルの車間距離をとつて時速約二五キロで走行し徐行することもなく交差点に約一・八メートル進入したところで南北道路を南進してきた原告車の後部に第一事故車の前部と出会い頭に衝突した。衝突時まで原告車には全く気づいていなかつた。

(3) 原告の走行状況

原告は当日午後六時頃建築現場で棟上仕事が終つた際日本酒をコツプに八分目位飲んだあとで走行しきたり、時速三〇キロ位で徐行することもなく交差点に進入右側に発見と同時に被告田村の車と衝突後その衝撃のため、進行方向が斜左へおれて、とぶように直進、西向してきた被告岡田の車前部右より左下腿部と衝突し、その場近くに転倒した。

(4) 被告岡田の走行状況

被告岡田は時速三五キロで西行しきたり、時速約二五キロ程度に減速して交差点に進入しようとした際約七メートル右前方からライトが光つて直進してくる原告車をはじめて発見、左にハンドルを切り急ブレーキをかけたが、約三メートル前進、前記のように原告車と衝突した。交差点進入前右側方面の確認が十分とはいえない。

(資料<省略>)

二、責任原因

(一) 被告田村の責任

右摘示事実によれば、現場における本件事故のような危険性は客観的に十分予見可能なはずであつたのに、これに対する左右確認等の注意義務をおこたり、予防措置を十分につくしていなかつた過失が認められる。従つて自己のために自動車を所有し運行の用に供する被告田村は損害賠償の責任を免がれない。

(二) 被告明治生命

ところで前掲各資料によると少くとも左の事実がある。

(イ)被告田村は被告明治生命保険相互会社の難波月掛営業所の所長で外交員一五、六名事務員二名の規模の部下を統率する管理職にある。

(ロ)しかも被告田村自身も内勤、外勤が約半々の比率を占め、右のように所員の大部分が外交員で、外勤の保険契約加入の勧誘が熾烈な各社競争下の被告田村らの職務の中心をなしているものである。

(ハ)本件事故発生場所は右営業所の営業区域内と認められる。

(ニ)被告田村の直近上部組織は船場月掛支社であつて、京都市在の被告田村の自宅と営業所との中間に位置している。

(ホ)当時被告田村は京都市在の自宅から本件事故車で通勤していたが、従前明石営業所勤務中も同様自動車で通勤し、片道一時間半位の行程であつた。そして昭和三五年八月運転をはじめてから、本件事故車までにマツダクーペ二台とキヤロル一台を買い替え、かなり自動車の使用消耗が激しいとみられる。

(ヘ)出社在所中自動車の保管には営業所の車庫を利用している。

さて右事実関係からすると、本件自動車を社用に使用しているかどうかの点については被告田村はその供述において真向から否定しているけれども、その業種、現在における業態などからして、また被告明治生命が現今の交通事情におけるかかる遠隔地からの自動車運転通勤を管理職である被告田村に許容放任していることは、会社の業務上重要な比率を占める外交、外勤等の業務や会社内部における連絡などに本件事故車を利用運転せしめていることを如実に示すものと推察するに難くない。

かかる危険性を許容して業務向上を継続的に享受している被告明治生命は、その利益享受と表裏をなす運行の範囲においては事故が起らぬよう、車および運転者である被告田村にわたつて十分監督管理をつくすべき義務がありまたその監督をおよぼし得る支配権能があるというべく、社会構造的関連からする自動車の危険責任の法理から、少くとも被告田村の属する営業所の営業区域もしくは業務に密接に関連した大阪市域内においては、出勤日の限度において相対的に本件事故車を被告田村とともに競合的に自己のために運行の用に供している者というべきである。従つて本件事故については前記被告田村の明かな過失からして自動車損害賠償保障法第三条による損害賠償責任を免がれない。

不法行為法上、特に自動車事故責任の構造上の特殊性よりして、運行者の地位は一個の自動車について必ずしも固定的なものではなく、事実上経済上の運行利益の帰属や、人間工学的な見地からも運転の危険度に微妙な影響をおよぼす業務、統制などの支配力の在り方などから、関係的、相対的に流動乃至競合することを妨げないというべきである。

外交、外勤の比重の大きい職種、業態における自動車の運行については特に右観点からする考察が必要であろう。

(三) 被告岡田の責任

一項の摘示事実によれば被告岡田にとつても本件事故のような危険性は客観的に決して予見不可能なものでなく、信号、交通整理のないしかも見透しの悪い本件交差点において、なお十全な予防措置をおこたらなければ本件のような接触事故を防ぎ得なかつたわけではなく、被告岡田は運転者として民法第七〇九条による不法行為責任を免がれない。

(四) 被告大洋金物の責任

本件事故は被告岡田が被告会社の社用のため運転中であつたことも前示資料により明かなところであり右被告岡田の過失により、被告会社もまた自動車損害賠償保障法第三条による賠償責任を免がれない。

(五) 被告田村と被告岡田の共同不法行為

右認定事実によれば、後記判示のように原告の過失もまた否み得ないところであるが、被告田村と被告岡田の過失が相まつて、原告の受傷となつたというほかなく、共同不法行為に当るから、従つて被告ら四名は不真正連帯債務の関係となる。

三、損害の発生

左のとおりの損害が認められる。

(一) 傷害の内容

原告主張(第四の一の(二)の1)のとおり認められる。

訴外原因外科の過失による損害拡大の事実は立証がなく、弁論の全趣旨より認められない。

(二) 損害の数額

(イ)療養費

(A) 治療費

原告主張(第四の一の(二)の(2)、(イ)、(A))のとおりである。

(B) 付添費 金三三、〇四〇円

(ロ)逸失利益金 七、六八六、三五二円

原告は大工職として事故当時毎月五万円の収入があつたところ、左脚切断のため、原職大工に復帰すべくもなく、坐業等の内職が不可能でないとしても労働能力の七割を失つたものというべきである。そして原告は当時二七歳であり、健康であつたから平均余命の範囲内でなお向後三〇年間(三六〇月間)は大工として右月額を下らない収入を得たはずであつたから、その間の得べかりし利益の総計の現価をホフマン式によつて算出すると右の金額となる。

(注)

(ハ)慰藉料 金五〇〇、〇〇〇円

原告主張(第四の一の(二)、(3)、(ロ))のとおり認められる。

(ニ)損害合計 金八、三五四、二七二円

(資料、甲第一、二号証、証人若井弘之、原告本人、弁論の全趣旨)

四、過失相殺

ところで前示一項の事実によれば原告にも飲酒の上運転し、交差点における事故発生の危険予防を看過し広路優先、徐行義務などをおこたつた重大な過失が認められるので過失相殺されねばならない事案である。ところで原告、被告田村被告岡田の各過失の内容、各自動車の危険性防禦能力などを考慮するとき、その責任負担の割合は被告田村側四、原告側四、被告岡田側二の割合というべく、原告の損害についてその四割を過失相殺すべく、被告らは共同不法行為よりして不真正連帯債務としてその六割にいたるまで各自負担すべきである。そうすると金五、〇一二、五六三円となる。

さて、また原告はすでに右のうち合計金二七〇、〇〇〇円を受領しているから(第三の三)被告らに請求し得べき損害金は差引き金四、七四二、五六三円となる。

五、結論

そうすると右金四、七四二、五六三円の範囲内における内金三、〇〇〇、〇〇〇円および本訴請求後の遅延損害金を不真正連帯の関係において被告らに支払を求める本訴請求はすべて理由がある。

訴訟費用は被告らの負担とし、事案により主文のような仮執行に関する宣言を付した。(舟本信光)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!